エックス線の影

澤田則宏

2011年06月26日 23:19

先日来院した症例です.
患歯は右上中切歯です.

昨年12月に痛みがでて,近医で再根管治療を受けました.
来院時に「鼻の下あたりを押すと痛みがあり,
ときどきズキズキする」と訴えていらっしゃいました.

口腔内写真です.


根尖相当部を触診しても圧痛はほとんどありません.
打診にも痛みを感じていませんでした.
歯肉の色も良いですね.


エックス線写真です.
 

根管治療はしっかり行われているようです.
治療した先生は「エックス線写真で良くなっていないので,
歯が割れているかもしれない」とコメントされたそうです.






さて,歯科医師の皆さん,どうですか?
先生だったらどう判断し,診断は?
そして治療方針は?



エックス線写真の影はそう簡単に消えません.
骨が再生し,成熟しないとエックス線で白く写ってこないのです.
元の病変の大きさにもよりますが,骨が再生して完全に落ち着くのには,
通常の根管治療であれば1年ぐらいの期間がかかります.
外科的歯内療法の方が骨再生が早く,それでも半年ぐらいです.

この症例は治療したばかりです.
この段階でエックス線透過像の縮小はみられなくても全くおかしくありません.
しっかり補綴処置や修復処置を行い,
定期チェックをしていくのが良いでしょう.

患者さんにもその旨をお話しました.
患者さんは歯科医師に言われた言葉が気になっており,
そのために違和感が強くなってきていたのかもしれません.
私の話を聞いたあと,患者さんは安心し,
当院では治療を行いませんでした.

「もちろん,腫れたり痛みが強くなった時にはすぐ拝見します.
その時にはご連絡ください」とお話してあります.

でも,きっと良くなると思います,この症例.
前医はしっかり治療してくれています.
独り言のように言っただけかもしれませんが,
先生の言葉を患者さんは敏感に察知します.
丁寧な説明が必要だということがわかる症例ですね.

私達専門医の出番はない方がいいのです.
この症例もきっと私の出番はないでしょう.
でも,その方が患者さんはハッピーです.
患者さんの健康が私達の望むところですから,私もハッピーです.


エックス線に写る影は,骨がないことを意味しています.
「影=炎症」ではありません.
過去のブログも参考にしてください.
http://blog.sawada-dental.com/e141997.html





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